学校教育一のクリエイター職!?特別支援学校の授業について

教育

特別支援学校で働いていると、悩みの一つとして「どんな授業をしようかな?」ということがでてくると思います。「え、教科書に書いてある内容をするんじゃないの!?」と疑問に思う人もいるかもしれませんが、実は、特別支援学校には決まった教科書が無いんです!

私は、特別支援学校の先生は学校教育における職人クリエイターではないかと考えています。なぜなら、教科書もない中で学習指導要領に定められた目標を達成できるように、加えて児童生徒一人ひとりの実態に合わせ、自分たちの知恵を振り絞ったり同僚同士で協力したりしながら一つの授業を創り上げて行くからです。

今回は、そんなクリエイティブな授業を繰り広げる特別支援学校で、どんな授業が行われているのかやゴリラ先生の実践例を紹介していきます。特別支援教育に興味のある大学生や一般の大人、初めて特別支援学校で勤務する方にはぜひ見ていただけたらと思います。

特別支援学校の授業とは?

・特別支援学校の教科指導と教科書について

最初に、教科書が無いということをお伝えしましたが、そこについて説明します。

小学校や中学校などはいくつかの教科書会社の中から地域や県で教科書を採択しています。国語なら、教科書に載っている説明文や物語を使って、学習指導要領に記載されている目標を達成できるように指導します。

教科書によって表現や単元を取り扱う順番などが異なってきますが、学習指導要領の目標を達成するために、基本的には同じような内容が記載されています。

しかし、特別支援学校では教科書は「星本」と呼ばれる、文科省が作成した知的障害のある児童生徒の各教科における目標を達成できるように内容を記載した本があります。他にも、一般図書といって絵本を教科書として扱うケースもあります。「あっちゃんあがつく」など、ひらがなを扱った絵本は国語の教科書として扱われるケースもありますね。

また、各教科ごとに目標も設定されています。例として算数と国語についての目標をまとめたものが以下のようになっていますが、「段階別の目標」の項目で少し詳しく説明します。

特別支援 知的 国語科 段階別の目標


引用 https://www.ed.kagawa-u.ac.jp/~tokusi/pdf-kenkyu/gakusyuunaiyoukokugo.pdf

特別支援 知的 算数科 段階別の目標


引用 https://www.tochigi-edu.ed.jp/center/sodan/cyosa/2017/h29_chosa.pdf

・算数?それとも音楽?特別支援ならではの「領域・教科を合わせた指導」とは

特別支援教育では、「領域・教科を合わせた指導」と呼ばれるものがあります。「日常生活の指導」、「遊びの指導」、「生活単元学習」、「作業学習」の4つが代表的です。

「日常生活の指導」

常生活の指導」では、手洗いや自分の荷物の片付け、朝の会などを行っているケースが多いです。他にも給食に関してのスプーンや箸、掃除などの指導に取り組んでいるケースがあります。一時間の授業として行われるというより、学校生活全体の時間を通して指導されるというケースが多いです。

「遊びの指導」

遊びの指導」は小学部で行われ、五感を刺激できるような素材遊びや感覚遊び、見立て遊びなどが行われます。よくあるのは「新聞紙遊び」や「スライム遊び」などの素材を使って教室で遊んだり、「アスレチックをつくって遊ぼう」といったように広い場所でトランポリンや滑り台を用意し遊ぶことがあります。

「生活単元学習

生活単元学習」では季節に合った行事に関する内容や誕生会、中学部高等部になっていくと調べ学習が増えたりします。小学校の生活科、総合的な学習をイメージしてもらえたらいいです。一見すると図工の授業のように見えても、同じ単元なのに次の時間は音楽に近いことをやっているなと感じるような授業も見られます。

「作業学習

作業学習」は中学部以上が学校卒業後の姿も見据えて取り組んでいきます。学校の清掃活動をしたり調理したものを実際に学校や地域のスーパーで販売したりすることがあります。学校によっては木工で椅子や机をつくったり、障害の重い子も自分にできることに取り組んだりします。

それぞれの特徴を簡単に書いてきましたが、合わせた指導は「各教科の学びの上で成り立っている」ことが大切です。そして、それらを関連付けて指導していくことが求められるので、一つの教科を指導するよりも本来は難しい授業なんです。

例えば、生活単元学習で誕生会を行うとします。準備や本番を行うと数時間必要ですが、授業ごとに取り組む内容も大きく変わってきます。「今日は誕生会で歌う歌を知って、みんなで歌ってみよう」となれば音楽の授業と関わってきます。「友達が喜ぶような飾りにするにはどうしたらいいかな?」となれば、図工で学んだことを活かすことも必要ですし相手のことを考えるという「特別の教科 道徳」の側面も加わってきます。

私たちが生活をしていく中でも、国語の知識だけ、算数の知識だけですべて物事が解決することはありません。リアルな生活を送る上では様々な知識が必要になってきます。教科領域等を合わせた指導でもリアルな内容を行う上で様々な教科で学んだことを使っていくことが求められます。

更に、児童生徒が本気でのめりこむような内容になることが「領域・教科を合わせた指導」では特に大切になってくると私は考えます。子どもたちに意欲がないと、活動していても楽しくないですし学ぶ内容も薄くなってしまいますからね。

・学年毎の目標はない⁉︎段階別の目標について

小学校中学校などでは学年によって教科の目標が定まっていますが、特別支援学校では段階別に目標が定まっています。「教科指導」のところで国語と算数の目標を画像で出しましたが、音楽や体育など他の教科も同じように段階別で目標が決まっています。

教科によって少し異なりますが、小学部1段階は3~5歳程度の発達段階を踏まえて目標を設定していることが多いです。国語なら、「話をしている相手の方を向く」ことが目標であったり、算数なら「目の前に物があるかないかを判断すること」などがあげられます。

小学部2,3段階になると小1くらいの内容が中心となり、高等部2段階になると小学校6年生の内容が含まれる教科もあります。理科であれば「てこの原理」が入っていますね。

参考 

特別支援学校学習指導要領 小学部中学部 各教科.pdf

特別支援学校学習指導要領 各教科 高等部(上).pdf

特別支援学校学習指導要領 各教科 高等部(下).pdf

特別支援学校に通う子どもが身近にいて、「どんな勉強をしているのかな」と思ったときは、上記の参考資料を見ていただけるとよいかと思います。

授業を考える際には、児童生徒がいまどの段階なのかを把握すること、段階の目標を達成するためにどんな授業があるかといったことから始まります。現行の学習指導要領ではこれまでに比べて特別支援学校の教科の目標や内容が細かく整理されていますので、すべて覚える必要はないですが大まかに把握しておきたいですね。

少し脱線しますが、特別支援学校は一つのクラスの中に様々な発達段階の児童生徒が在籍しています。そのため、同じクラスでも学習の目標は個人で異なってくるため、授業によってはグループ分けをすることも多くなります。そこで大切なのが「T・T(チームティーチング)」です。

同じ段階の子を集めてグループを作ると担任していない子も指導することになるので、日頃から児童生徒のことについて情報収集をしておくことはとても重要です。また、学習の段階以外にも多様な特性がある集団で一人で授業をするのはとても大変なので、授業の準備を手伝ったり活動中に困っている児童生徒に支援を行うなどの役割が求められます。

・ここが改善できれば・・「自立活動」で課題の根元を分析し解決に導く

特別支援ならではの授業として「自立活動」と呼ばれるものがあります。定義としては、「個々の児童又は生徒が自立を目指し,障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養い,もって心身の調和的発達の基盤を培う。」とされています。

h特別支援学校学習指導要領 自立活動.pdf

「集中力が続かないな」や「どうしてすぐに怒って手を出してしまうんだろう」といった疑問がでてきたとき、どうしてそうなっているのか、原因を考えてそれを主体的に改善できるような指導を行うことが求められます。

例えば、「集中力がない」といっても理由は様々だと思います。
 ・姿勢の保持が苦手?
 ・相手の話していることが理解できている?
 ・そもそも聞こえていない?
 ・注目する相手がだれかわかっている?
 ・睡眠のリズムは取れている?

今あげた考えられる理由は、自立活動の6区分27項目を参考にしながら分析しています。これがとても重要なんです!

これも、チームティーチングで色々な先生の目で児童生徒を見たうえで分析することがとても大切です。そして、授業の目標や内容もこの6区分27項目を参考にして作成していきます。これも、一時間の授業としてではなく学校生活もしくは自宅での生活も含めて全体で指導していくことが求められます。

具体的にどんな授業があるの?ゴリラ先生の実践例

私は講師から特別支援学校で働いていますが、主に小学部で生活単元学習や教科の指導を行ってきました。今回はその一部として、算数の内容を紹介します。小学部2段階の【D データの活用】から「○×を用いた表」を単元にしました。

単元の目標と思いついたきっかけ

対象児童は小学部高学年の3人で、車や飛行機といった乗り物が大好きでした。そこで、飛行機をゴムで飛ばし、だれが一番目的地に着陸させることができたかどうかを調べる単元をしました。

上記の画像にもあるように、○を横に並べて着陸に成功した回数を友達と比較したり、○の数を数えて、「□□君と一緒」などと発言したりする姿を目指しました。

このデータの活用を行おうと思ったのは、休み時間に子どもの遊びを見ていた時でした。

ゲームで輪投げをしていた時に、二人が「勝ったのは僕だ!」と喧嘩していました。それぞれ輪が入った数を数えてはいたのですが、どっちが多く入ったのかは数字では多少を比較することが難しく、互いが勝ったと言い合っていました。

できたかできなかったかを○×で表現することはできるので、「比較すること」を目標にして算数ができるなと考え、この授業を行うことにしました。内容を少しずつ変えながら6時間くらい行いました。

単元の内容

まずは、○と×で目的地に着陸できたかどうかを表現することを目標として授業をしました。ここはスムーズでした。

そして、【図 対戦例】のようになったときに、どっちが勝ったかわからないとつまずく様子が見られました。ここで○の数をかぞえるのも思考の一つですが、他の方法もあることを示しました。

図 対戦例

「今、○と×がバラバラになっているね。さっき○の数を数えていたけど、○だけが知りたいんだね!」と発問し、私が空いたスペースに○のカードを2つほど手に取り空いたスペースに並べると、「あ!」と言って自分の○のカードを並べました。そしてあとの二人も同じように○だけを並べました。

「□□君が○が多かった」という発言が出てきました。比較する対象の○だけを集めて並べることで比較することに気づけたのではないかと思いました。実はこれ、算数の1段階にある「物の分類、整理」の内容が理解できていないと気づくことは難しいです。算数は系統性が強く表れる教科なので、そこも意識して単元を作成しました。

そして、飛行機飛ばしだけでなく輪投げや射的など遊びを変えながら、様々な場面で○×表を使う授業をしました。これが中学部や高等部なら、遊びではなくても調べ学習のようにして○×表を学習することができます。また、この経験がのちにグラフの学習で大きな意味を持ってきます。

まとめ

特別支援学校では小学校や中学校と比べて教科書は特に決まっておらず、学習指導要領を参考にしながら教員の創意工夫によって単元が設定されています。教科、領域・教科を合わせた指導、自立活動を紹介してきましたが、特に自立活動は特別支援ならではの学習内容になっています。

児童生徒の実態を踏まえ、目標を達成するためにどんなことができるのか、上手くいかなかったら次はこうしてみようと試行錯誤を繰り返していくことが多く、そういった力が強く求められるのが特別支援の教員だと思います。

ちなみに、今回紹介した各教科の目標ですが、これは「知的障害」のある児童生徒を対象とした学習目標とされています。中には肢体不自由や聴覚障害があるけど、中学校や高校と同じ学習内容を学んだり大学受験をしたりする生徒もいます。そのようなときは教科書は教科書会社のものを使いますが、指導において工夫する点があったりします。

このブログをきっかけに、少しでも特別支援教育について知ってもらえたらうれしいです。最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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